「山廃仕込み」と「摺もと仕込み」
  
塾生君●酒博士、最近「山廃仕込み」というお酒をよく見かけるけれども、「山廃仕込み」ってどういうこと?

酒博士●酵母を純粋に育てたものを「もと」というんじゃが、山廃もとを使って仕込んだお酒のことを山廃仕込みというんじゃよ。

塾生君●じゃあ、山廃もとの山廃ってどういう意味?

酒博士●山廃もとというのは、山卸廃止もと(やまおろしはいしもと)を略したものなんじゃ。この山卸というのは、「半切り桶」と呼ばれる桶の中に麹と蒸し米、水を入れて山のようになったものを櫂棒で摺り潰す作業のことをいうんじゃよ。

塾生君●つまり、山卸という作業をやめた「もと」のことを山廃もとというんだね。どうして山卸をやめてしまったの?

酒博士●昔はお米は櫂棒で摺り潰さないと溶けないと考えられておったんじゃが、その後、そんなことをしなくても麹の酵素の力で溶けることが分かったので山卸をやめたんじゃ。「櫂で潰すな、麹で溶かせ」という言葉があるが、明治44年に嘉儀金一郎という人が考案したんじゃよ。

塾生君●それじゃあ、いまでも山卸をすることはあるの?

酒博士●あるある。山卸を行うもと造りを「摺もと」とか「生もと」という。聞いたことがあるじゃろう。しかし、酵母を育てる工程は山廃も摺もともほとんど変らず、どちらも同じように手間がかかるんじゃ。

塾生君●どういうこと?山廃の方が作業はうんと楽なんでしょ?

酒博士●山卸をしない分、作業は軽減されているが、山廃もとも摺もとも自然に生まれてくる乳酸菌を育てて、それが造りだす乳酸によって雑菌のいない状態を造ってから酵母を純粋培養するから、出来上がるまでに一ヵ月もの手間がかかるんじゃ。だから、これらをまとめて「生もと系」というんじゃよ。

塾生君●生もと系以外にはどんな「もと」があるの?

酒博士●一般には速醸もとというのが造られているんじゃが、既成の乳酸を添加するから、約二週間で出来上がるんじゃよ。

塾生君●福光屋にも生もと系のお酒があるの?

酒博士● 山廃もとでつくられた「黒帯・山廃純米」「加賀鳶・山廃純米超辛口」というのがあるぞ。

塾生君●それはどんな味わい?

酒博士●山廃系のお酒は、重厚なコクのある味わいと切れ味の良さが特長じゃ。

塾生君●どんな飲み方がいいの?

酒博士●冷やでももちろん美味しいんじゃが、生もと系のお酒は燗上がりするのが特長じゃ。室温のままでは隠れていた独特の複雑な味や香りを、あまり熱燗にせず、ぬる燗でじっくりと味わってほしいんじゃ。また、油を使った料理とあわせると、口の中にまとわりついた油っこさを洗い流し、素材の旨さを引き立てる抜群の相性があるんじゃよ。
さて、塾生君、ちょっとややこしかったが、生もと系のお酒についてのウンチクがわかったかな?とにかくぜひ、一度飲んでみるといい。"これぞ、通の味"という味わいじゃからな。

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