酒蔵だより
SAKAGURA
壽蔵の酒造三昧――酒蔵の名も無き仕事4【検尺】
蔵人たちの日々の仕事には、検尺と桶算という地味な仕事があります。タンクの中身の量を正確に測る作業で、仕上がったお酒の量はもちろん、酛(酒母)や醪の量などタンクに中身があれば毎日必ず検尺と桶算が行われます。その記録を専用の帳面につけることも検尺の一つです。お酒を移動させるごとに移動前と移動後の量を測り、欠減する量まで正確に測るほど徹底されています。
なぜこれほどまでに厳密かというと、お酒が酒税という国の税金の課税品目だからです。仕入れたお米の量と仕上がったお酒の量が適正かどうか、つねに公明正大にする必要があり、そのための記録が大切であるという理由が一つ。最も大切な理由は、福光屋のために丹精込めて育てられたお米を一粒たりとも無駄にしない、という原料管理の徹底が大切だからです。いつ飲んでも美味しいお酒は、このような真面目な造りと原料に対するシビアな緊張感によって生まれ、その経過は数字一つひとつからも辿ることができると杜氏の板谷はいいます。
検尺は、まず“さし”と呼ばれる木製の検尺棒をタンクの口から垂直に差し込み、お酒に浸かって色が変わったところの目盛りから内容量を割り出します。そこからタンクの空寸を測定。桶算は、タンクの満量から検尺で導いた空寸量を引いて中身の量を算出します。満量から空寸量を引く。そう聞けば単純な引き算のようですが、中身を一部だけ抜き出して新たに足す、加水する、火入れをすれば煮増えするといった具合に、複雑に変化する容量を流量計などの機器に頼らず算出する術を持つことは高度な計算能力が求められます。
じつはパソコンを使えば数字は一瞬ではじき出せ、壽蔵でも補足的にそのようにしています。それでも、さしを使って検尺し、桶算をする理由を杜氏は、「苦労して数字を導き出し、その数と日々の仕事とを照合させながら体得する。数字から誤りに気がついたり、類推したり応用する力が確実に養われます。最初からパソコンの画面を見て数字を追いかけるだけでは、酒造りの最も大切な部分が育たない」といいます。
若手蔵人たちは、国家資格である酒造技能士の実技試験を前に、空のタンクに水を張って検尺の特訓を受けるのが夏の壽蔵の習わしです。