酒蔵だより
SAKAGURA
2021.5.10.
壽蔵の酒造三昧――酒蔵の名も無き仕事3【袋洗い】
「酒造りの仕事は洗濯だらけ、掃除ばかり」という杜氏。酒造りには、洗米用の米袋、麹を包む麻布、拭き上げ用布、醪を搾る際の酒袋など、とても多くの布類を使います。素材は綿、麻を中心に化学繊維とさまざまで、酒造りのどの工程にも欠かせない大切な道具ですが、これらの布を使う上で避けられないのが匂いとの戦いです。
せっかく仕上げたお酒の香味を損なうような繊維そのものの匂い、繊維に付着したお米の成分や醗酵由来成分が元になる臭気を「袋香(ふくろか)」といい、オフフレーバー(お酒にとって好ましくない香り)の一つとして、蔵人は大変嫌います。洗濯がとても重要になるのは、それらを徹底的に取り除く必要があるからです。
写真は、最高位の純米大吟醸の搾りに使われる酒袋の洗濯風景。約300枚の酒袋は前日にお湯につけ、お米由来の油分などを落とし、翌日たっぷりの水で繊維の目に何度も水を通して一枚ずつ丹念に手洗いします。お米と水だけでお酒を造る純米蔵にできるだけ化学薬品を持ち込みたくないことと、その薬品がさらなるオフフレーバーになる可能性があることから、洗浄剤を一切使用しないことも洗濯に時間と手間がかかる理由です。
蔵内のあちこちに洗濯物が盛大に干される景色は、酒造期の終わりをしらせる風物詩。春の終わりの蔵内では、このような地道な仕舞い仕事が日々行われています。