[工房取材]上出惠悟さんを新たな描き手に迎え、「福正宗 酒歳時記」アートラベルが生まれ変わります。 | こめから.jp | お米のチカラで豊かに、上質に。

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2020.11.13.

[工房取材]上出惠悟さんを新たな描き手に迎え、「福正宗 酒歳時記」アートラベルが生まれ変わります。

季節のお酒に描き下ろしのアートラベルを添えてお届けする「福正宗 酒歳時記」。1986年の発売から35年も続く人気シリーズで、これまで時代を代表するアーティストを描き手に迎えてきました。この度、2021年の吟醸新酒から九谷焼窯元の後継者で、窯のディレクションと共に、九谷焼の企画販売やデザインを勤め、個人作家としても活動する上出惠悟さんを起用。発売にあわせ、工房でお話しを伺いました。

−福光屋からお酒のアートラベルの依頼を受けてどう思われましたか?

福光屋さんとは、2009年に福光屋銀座店(2011年7月閉店)の10周年記念の特別企画展にお声をかけていただいて以来のお付き合いです。石川県では誰もが知っている老舗の酒蔵ですし、「酒歳時記」というお酒にもとても歴史があって、お声をかけていただけて光栄だと思いました。「酒歳時記」というお酒に、多くのファンがいるということもお聞きしましたので、期待に応えられるようにしなくてはいけないと思いました。

−どんな路線、アイデアでご自分のテイストを出そうと考えていますか?一作目となる「酒歳時記 吟醸新酒」の制作について教えてください。
「酒歳時記」ではこれまでいろんなアーティストが描いてこられたと聞きました。最近では牧野伊三夫さんや吉田カツさんたちの仕事に敬意を払い、基本的なフォーマットは継承しながら自分らしさを出したいと思いました。初回の「酒歳時記 吟醸新酒」は、干支を描くこともあって古典がベースになりますが、古びたものに見えないように、今の時代感みたいなものを盛り込みたいと思いました。来年は丑年ですから、天満宮でも有名な臥牛をモチーフにしました。牛を赤で描くことは日本でも西洋でもよく見られますね。日本では特に赤べこなどは魔除けや疫病退散として用いられたと言われていますので、現在のコロナ禍の中での皆さんの思いにも沿うモチーフではないでしょうか。背中の梅と左上の飛梅は描き方の様式を変えていますが、加賀藩前田家の梅鉢の御紋は菅原道真公に由来すると伝わりますし、福光屋本社の傍には飛梅町という地名もありますので、それらを繋げて一つの絵にしました。牛の背の白梅と、春告鳥の鶯と飛梅の想像と現実の世界を不思議な配置に描いています。 “吟醸新酒”、“ふくみつや”の書き文字にも、あまり民藝風に寄り過ぎないように試行錯誤を繰り返しました。二〇二一の〇は、お酒にちなんで〼(枡)にしてみました。

―染色技法も使われていると聞きました。

原画はすべて八尾の和紙に染色技法の筒描きで描いています。妻が元々着物の染色の仕事をしていたこともあってずっと興味があった技法でした。餅米と米糠で作られた糊で伏せてマスキングします。ラベルの和紙と相性がよいこともありますが、糊で描くことが難しく、線を引くにしても自分でコントロールができない部分、思い通りに描けない部分がどうしてもあって、そこに面白みを感じています。糊を洗い流して初めて絵が完成するのも楽しみがあります。配色は九谷らしさが出ており、九谷の五彩で、文字も九谷の紫です。

―手描きの部分があることに驚きました。どんな思いがあるのですか?
僕が代表をつとめている上出瓷藝(かみでしげい)では、企画・デザイン・販売を行い、上出長右衛門窯のディレクションも行っています。今回のラベル画も含め、一連の仕事の過程でデジタルを活用することはもちろんあります。でも、最初から最後までコンピュータ上で完結させるのは嫌で、思いがけなかったことやミスなどの偶然性も取り込みたいと考えています。僕の場合は、アウトプットが焼き物のことが多いのですが、どんなに手をかけても最後は窯の中に入れなくてはならない。人間の手が及ばない火と窯の力で完成する。それが焼き物の面白さですが、お酒もそうですよね? 酒造りの職人さんが丹精込めて仕込むけど、目に見えない麹菌などの微生物に任せなくてはお酒になりませんよね。だから「精一杯手塩にかけて、最後は窯の神様、つまり自分の手の届かない何かに委ねる」ということを、大事に思っています。そんなプロセスを考えながら、四季のお酒のラベルも描き続けていきたいと思っています。

2月24日には2作目となる、「酒歳時記 春吟醸」が発売となり、展開がますます楽しみな上出さんのアートラベル。また新しい酒歳時記の世界が広がります。

左/八尾の和紙に描かれた下絵。上出さんは、筒描きでしか表現できない線や偶発性を大切にしている。
右/上出さんが企画・デザイン・販売を行う上出瓷藝の干支手塩皿(手前)。

左/上出長右衛門窯の轆轤場。約40年間轆轤を引き続ける熟練の職人さんもいる。
右/赤べこをはじめ、アイデアの種になりそうな小物、試作品が所狭しと並ぶ作業スペース。

福正宗 酒歳時記 吟醸新酒 干支ラベル 2021

酒米の最高峰「山田錦」を契約栽培し、伝統の技で丹念に仕込んだ、初々しく上品な香り高い純米大吟醸酒です。お歳暮やお年賀、新年の祝酒や年越しの乾杯にも最適。冷やしてお召し上がりいただき、しぼりたて新酒の初々しい旨さ、香りの高さを、新年のはじめの1本として是非お楽しみください。