酒蔵だより
SAKAGURA
「これからの時代のお酒を造る」、令和2酒造年度の仕込みが始まりました。
9月初旬、金沢城下の酒業の守護神を祀る松尾神社の宮司をお招きし、今期の酒造りの無事を祈ってお祓いを受けた壽蔵。その後、原料米の準備や機器の確認、道具の最終手入れや水通しを進めながら、甑立て(こしきたて/その年最初の蒸し米づくり)の日を迎えました。昨年と大きく異なるのは、コロナ禍による社会情勢の変化、新しい生活様式によってお酒をとりまく環境も変わったこと。それらは、造り手である蔵人の意識にも大きく影響しています。
「これまでは、飲食店のメニューにあるお酒を注文し、複数人で賑やかに長時間お酒を飲むことが多かったと思いますが、コロナ禍によってその機会は激減しました。かわりに、本当に飲みたいお酒を自分自身で選び、ご自宅などの落ち着いた環境でじっくり味わうことが多くなったと思います。お酒の造り手としては、個のお客さまにシビアに質を問われ、評価されるということです。一方で、造りの意図や、味わいの繊細な変化を受け止めていただきやすいということでもあります。私たち蔵人は大いに襟を正し、一つのチャンスにしていかなければなりません」と、壽蔵杜氏・板谷和彦。
また、お酒という嗜好品は時代や世情によって、好まれる味わいや傾向が変化するものです。ここ数年は、日本酒のアルコール度数のやや低い、軽快に味わえる商品に人気が集まります。コロナ禍による社会の動き、最近の日本酒の嗜好状況を受け止め、壽蔵の今期の酒造りを「これからの時代の酒造り元年」と板谷はいいます。
「気持ちを晴れ晴れとさせるような、軽い味わいのお酒。アルコール度数を低めにした、心地よい酔いを楽しめるお酒を造ることが今期の壽蔵の第一の目標です」と、板谷。
じつは、軽い味わいでアルコール度数の低いお酒を造ることは、麹や酵母といった微生物の健やかな働きを大切にし、完熟醗酵を旨とする福光屋にとっては、けっして簡単ではありません。完熟醗酵させると必然的にアルコール度数が上がり、力強い味わいになるからです。純米造りの骨格となる造りを守りながら、どうやってそれらの狙いを実現するか――従来の酒造りにはない発想、新しい技術が必要となる挑戦でもあります。
「現在、壽蔵の蔵人は15名。全員が社員です。ベテランから若手まで、非常によいチームワークでまとまって、とても仲がいい。私の指示や目指す方向をしっかり理解し、自分の持ち場でしっかり仕事をしてくれる。そんな信頼関係が出来上がっています」。純米蔵として難題を含んだ「これからの時代の酒造り」は、この“チーム壽蔵”だから挑戦できることでもあります。395年目の酒造りがいよいよ始まりました。