究極の純米大吟醸を湛えて50年。「斗瓶」という道具から見える酒造り。 | こめから.jp | お米のチカラで豊かに、上質に。

酒蔵だより

SAKAGURA

2020.5.26.

究極の純米大吟醸を湛えて50年。「斗瓶」という道具から見える酒造り。

390有余年の歴史をもつ福光屋の醸造蔵・壽蔵は、最先端の醸造機器を導入しながら蔵人が代々受け継いで使う道具が数多く存在します。その一つが斗瓶(とびん)です。文字通り、一斗(一升瓶10本分)のお酒を溜めることができるガラス製品で、福光屋では約50年以上前、三代前の杜氏の代から大切に使われ、幾人もの手をわたってきたものです。
斗瓶は、最も上質な純米大吟醸を袋取りで搾る際に使われます。醪を入れた酒袋を吊るし、外圧をかけることなく自重で滴り落ちる雫を集め入れるのがこの斗瓶です。袋取りは、難易度が高く、大変に手間のかかる上槽方法であることから、この手法で搾られるお酒は、純米大吟醸の中でも鑑評会出品酒と福光屋の純米大吟醸の最高位銘柄の「瑞秀」のみ。斗瓶は、選ばれた高級酒だけを毎年湛えてきたことになります。
「蔵人が全身全霊をかけて仕込んだ、“その年一番”のお酒を毎年囲ってきたのが斗瓶です。最も緊迫した寒仕込みの大詰めで登場する道具ですから、若い蔵人は触ることすら恐れる存在。斗瓶が放つ緊張感や風格は、代々の杜氏や蔵人の思いやエールを感じるからこそで、醸造技術だけではなく、これらの道具類にも壽蔵の心が宿っていると感じます」と、杜氏の板谷和彦。

斗瓶に集められた搾りたての純米大吟醸はその後、氷温下で1〜2週間保管しながら澱引きを行います。醪の成分が微かに残るお酒はやや白濁しますが、澱がゆっくりと下がりきった頃を見計らって、空気圧を利用した専用のスポイトで澄んだお酒を慎重にすくい出すのです。身体の芯まで冷える氷温庫に籠もり、少しの振動や衝撃を与えることなく手早く澱引きをします。今期の金沢国税局酒類鑑評会での優等賞受賞の栄誉も、こういった緻密な仕事の積み重ねによって得られたもの。斗瓶はそんな極限を追求した酒造りを支える道具であり、蔵人にとっては精神的な拠り所でもあります。