大晦日、元日も微生物とともに。福光屋が貫く「自然主義」という酒造り。 | こめから.jp | お米のチカラで豊かに、上質に。

酒蔵だより

SAKAGURA

2019.12.30.

大晦日、元日も微生物とともに。福光屋が貫く「自然主義」という酒造り。

家々の玄関にお正月飾りが据えられ、今年も残すところ1日。福光屋の醸造蔵・壽蔵には大晦日はもちろん、元日やお正月の休暇はありません。酒造りの真っただ中、とりわけ最大の緊迫感をもって挑む純米大吟醸の仕込みが始まったばかりですから杜氏や蔵人は蔵に泊まり込んで、麹や酒母タンク、醗酵タンクの見回りと細かな温度調整を行います。微生物の自然な働きやペースを最優先させる酒造り、つまり人間の都合で酒造りをしない福光屋の酒造りは、当然、年の瀬を迎えたこの瞬間も歩みを止めることなく続けられています。
「壽蔵は年末年始もいつもとまったく変わらず麹を仕込み、酛を立て、搾りも行います。特別なのは蔵人が少しでも早く帰宅できるように、休憩抜きで仕込みをする“やり仕舞い”を行うことです」と、杜氏の板谷和彦。酒造りがひと度始まれば、たとえお正月であろうと、休暇に合わせて麹や酵母の働きを早めたり、止めたりすることはしないのです。
大晦日は、除夜の鐘を遠くに聞きながら麹や酛の見回りを行います。タンクの中を懐中電灯で一つずつ照らして覗き込み、醪の様子を確認する杜氏と蔵人。温度や香り、状態を五感で確かめながら、タンクの中で繰り広げられる醪の躍動をじっと見つめます。大小の泡が次々に膨らんでは弾け、大きなうねりを起こしたかと思うと静まり、また次の泡が生み出される絶え間ないお米と水、微生物たちの営み。酵母が力いっぱい生きて醗酵を進めるその様は、健気で無垢そのものです。
酒造りの日常風景でありながら、「耳を澄ませると、醪の泡が弾ける音が囁きのように聴こえます。愛おしく、尊く、神秘的。大自然に抱かれているかような安心感と心地よさにいつもしばらく身を委ねてしまう」と、杜氏。
1年の終わりを迎えようとする今、福光屋の蔵人たちは、醪の傍らで微生物の健やかな声を聞きながら、厳かな心持ちで酒造りを見通します。そして、蔵人にとってのお正月ともいえる春の甑倒し(仕込みに用いる蒸し米づくりの最終日)までの道のりを、今一度確かめるのです。