酒蔵だより
SAKAGURA
酒づくりの言葉・酒蔵ごよみ――「初呑み切り」
7月、仕込みのない酒造閑期の酒蔵に独特の緊張感が張り詰める日があります。蔵元(社長) や杜氏、生産部門の責任者らが揃い、「初呑み切り」が行われる2日間です。初呑み切りとは、昨秋から春までに仕込んだすべてのお酒と長期熟成酒の、その年の質や熟成具合を初めて確かめる非常に重要な蔵内行事です。持てるすべてをかけて挑んだ2017酒造年度の酒造りが、果たして正しかったのか否か――お酒の仕上がりとして、その答えを突きつけられる日となります。
この日、貯蔵タンクの中身を取り出す呑み口を慎重に開封して少量のお酒を取り出し、唎猪口に受けてまずは杜氏が色、照り、香りを確認します。次いで蔵元、生産部門の責任者や蔵人三役が一つの猪口を順に回しながら、200を超える貯蔵タンクのお酒を一つ一つ確かめます。「お米と水、微生物の働きで仕上がったお酒に、“時間と気候”という要素が加わってどのように成長したか。われわれ人間の手が遠く及ばない自然の摂理に正しく従えたのか、寄り添う酒造りができたのか? 強く自問する時間、通知表を受け取るような気持ちです」。と、板谷和彦杜氏。
8月には2度目の呑み切りを行います。貯蔵庫ごとにお酒の温度を測り、温度が高く熟成が進み過ぎているようであれば空調を加減し、水を撒くなどして適熟となるよう環境を整え、お酒の仕上がりをよりよくする細かな努力を重ねていきます。ようやく形に表れ始めたお酒から、仕込み過程を一つ一つさかのぼって過去の仕事の見直しを行う厳しく、地道な夏。酒蔵を背負う蔵人たちは、突きつけられた課題と向き合いながら、次の酒造りのための目に見えぬ仕込みを始めています。