酒蔵だより
SAKAGURA
酒づくりの言葉・酒蔵ごよみ――「甑倒し」
2018年4月下旬、福光屋・壽蔵は「甑倒し」の節目を迎えました。甑(こしき)とは、酒米を蒸すために用いる大型の専用蒸篭(せいろ)のことで、甑倒しとはこの蒸篭を倒して仕舞うこと。今でこそ甑に代わって大型の蒸米機を用いますが、意味合いは同じで翌日以降この蒸篭を稼働させない、つまり蒸米造りの終了を意味します。仕込みは米を洗い、蒸すことからすべてが始まり、その蒸米で麹、酛、醪を造りますから、新たな蒸米を用立てないということは、今季の酒の仕込みがすべて終わったことを表すのです。
2017年秋の甑立てから数え、今季の甑日数は200余日。半年以上続いた長く厳しい仕込みが終わるこの日は、酒蔵にとってのまさにお正月。早朝からの重労働であった蒸米造りや米洗い、次々に追われる仕込み仕事から解き放たれるひととき。もちろん最後の搾り、熟成まで怠ることなく仕事に励みますが、蔵人の表情はいつになく和やかです。
「2017年は初心にかえって一心不乱に酒造りに邁進した年でした。重い荷物をようやく降ろせた安堵感。蔵人16人全員が揃って、怪我事故なくこの日を迎えられたという感謝の念がひと際だった」と、就任後6度目の甑倒しを迎えた板谷杜氏。皆造まで醪は一日一日と搾られ、日に日に空いたタンクが伏せられていく5月の壽蔵。お社が祀られた蔵の屋上から望む、金沢の街並みや白山麓の残雪をいつになくゆっくりと眺められる季節です。