酒蔵だより
SAKAGURA
壽蔵の酒造三昧――酒蔵の名も無き仕事6【新自然主義】
「お酒を造るのは、麹や酵母といった目に見えない微生物である。人間はその微生物たちの裏方である」――これは福光屋が酒造りを行うえで、最も大切にしてきた微生物主義という考えです。お米と水だけでお酒を醸す純米造りでは「醗酵」という自然現象にすべてが委ねられています。
その大きな自然現象の真っ只中にある醸造蔵・壽蔵では、数年前から「蔵付き」の菌に着目した新たな取り組みが行われています。蔵内で長年使われてきた木製道具類から採取した酵母や乳酸菌の解析を進め、酒造りに有用な株を育てて酒造りに活用し、唯一無二のお酒を生み出すもの。
実は、酒造りに用いる麹や乳酸菌、酵母は専門業者から仕入れたものを添加するのが一般的です。福光屋でも、自社酵母以外は市販の麹菌、乳酸菌を加えて造られています。それは決して間違ったことでも、隠すべきことでもなく、現在多くの酒蔵で行われている安全な日本酒の造り方だという杜氏の板谷和彦。
「スタンダードからもう一歩先にある純米造りの進化、個性の確立を考えると、“蔵付き”の菌による造りの追究も可能性の一つです。今現在の蔵人たちの高い技と能力があれば、自前の菌を解析し、その特性を理解し、使いこなすことができると思っています」。
現在、蔵付きの酵母が3種、乳酸菌は4種の採取、同定、単独培養に成功し、令和2酒造年度の一部の山廃酛に蔵付き乳酸菌を使用した「加賀鳶」が誕生しました。今期の令和3酒造年度の造りにも「蔵付き」乳酸菌や酵母を使用したお酒を仕込むことになっています。写真は、自社酵母を麹エキスに植え付け、培養をスタートする酛屋。
水、酒米、麹菌、乳酸菌、酵母、金沢の気候、人間の技。それらの無限の組み合わせと融合で生まれる醗酵の神秘。大きな宇宙の中で、福光屋のオンリーワンを追究する「新自然主義」は、未来に続く壽蔵の新たな柱になります。