酒蔵暦
酒造りは、日本の気候や風習、折々の歳時記などと密接に関わるもので、酒蔵ごとに固有のしきたりがあります。
大切に守られてきた酒造りの慣習、金沢特有の文化と融合した行事は、現在も福光屋・壽蔵に受け継がれています。
醸造業界・酒造業界における一年の区切りは、毎年7月1日から翌年6月30日で、
この1年間を醸造年度、または酒造年度といいます。
元号に基づき、平成20年7月1日から平成30年6月30日は「BY20」または「20BY」と記されます。
※BY:Brewery Yearの略
7月・文月
二十四節気/小暑・大暑
七十二候/半夏生・温風至・蓮始開・鷹乃学習・桐始結花・土潤溽暑
酒蔵行事
土用洗い
蔵内で使われている、半切り桶や手桶、櫂棒などの木製道具を一堂に集めて水洗い・補修し、殺菌のための柿渋を塗って天日に干すことをいいます。酒造りが満了した皆造(かいぞう)後、蔵人全員が揃って行う土用洗いは、酒蔵の夏の風物詩でもあります。この日を境に、福光屋は酒造閑期となり、美しく整えられた道具たちは秋からの新しい酒造りを待ちます。
季節商品
氷室献上
藩政時代、旧暦6月1日(新暦7月1日)に、加賀藩から江戸・徳川家に氷を献上していた故事にちなみ、厳冬の酒蔵で仕込んだ純米大吟醸の搾り立てをそのまま氷温で貯蔵し、氷室の日に蔵出ししています。献上氷に見立てた涼やかなボトルと香り高い生酒は、金沢ゆかりの歴史と風習から生まれました。
酒歳時記
氷室の日
旧暦6月1日(新暦7月1日)は、代々の加賀藩が大寒の頃に氷室に仕込んだ氷を江戸の将軍家に献上する日でした。江戸までの120里(約480㎞)を昼夜走り、4日をかけて運んだと伝わります。後に城下の菓子職人が江戸までの道中の無事を祈願して氷室饅頭を考案。現在は、前日の6月30日に雪を取り出す氷室開きが行われ、夏場の無病息災を願って氷室饅頭や杏、竹輪を食す風習が今なお市中に残っています。
酒歳時記
柳陰
味醂と焼酎をほぼ同量合わせた和製のカクテルを柳陰といいます。江戸時代には暑気払いに愛飲された、珀色の上品な甘口の高級酒。上方では「柳陰」、江戸では「本直し」とも呼ばれ、風雅な夏の酒として親しまれていました。
8月・葉月
二十四節気/立秋・処暑
七十二候/大雨時行・涼風至・寒蝉鳴・蒙霧升降・綿柎開・天地始粛
酒蔵行事
呑み切り
ひと冬かけて造られた酒は、タンクに入れて貯蔵・熟成させます。貯蔵中の酒の品質や熟成具合を確かめるため、タンクの下部にある酒の取り出し口(呑み口)を開封し(切り)、酒を少量汲み出すことを呑み切りといいます。6月に行われた初呑み切りを経て今回の呑み切りでは、熟成の状態、原料米の適正、造りの評価を行い、秋から始まる酒造りの方針を決定する大変重要な行事です。
9月・長月
二十四節気/白露・秋分
七十二候/禾乃登・草露白・鶺鴒鳴・玄鳥去・雷乃収声・蟄虫坏戸
酒蔵行事
甑立て
甑(こしき)とは酒米を蒸すための大型の蒸篭のことで、この甑を立てることは酒造りの始まりを意味します。現在は蒸米機を使用していますが、酒造りの作業は酛用の蒸米造りから始まり、翌春の甑倒しまで約200日の間、稼働することになります。
季節商品
冷やおろし
冬季に造られた新酒を蔵のタンクでひと夏かけて貯蔵させ、ほどよく熟成して飲み頃を迎えたとき。秋風とともに外気温が下がり、蔵内外の気温差がなくなった時分を見計らって蔵からおろした熟成酒が冷やおろしです。搾り立てにはない、深みと調和のとれた味わいが特長。冷やおろしの蔵出し時期に、旬の味覚の賑わいが重なって秋の風物詩になっています。
酒歳時記
重陽の菊酒
五節句の一つにあたる重陽の節句。古来中国では、奇数は縁起のよい陽数と考えられ、もっとも大きな陽数が重なる九月九日を、陽が重なるとして「重陽」としました。旧暦では菊の咲くころにあたり、別名「菊の節句」と呼ばれています。延命長寿の薬草であった菊花を酒に浮かべ、菊花酒を酌み交わす風習は平安時代に由来するともいわれています。
10月・神無月
二十四節気/寒露・霜降
七十二候/水始涸・鴻雁来・菊花開・蟋蟀在戸・霜始降・霎時施
酒蔵行事
初揚げ
熟成した醪(もろみ)を圧搾、濾過して清酒と酒粕に分けることを上槽(じょうそう)または槽揚げ(ふなあげ)といいます。その年最初の上槽を初揚げといい、一番酒/新酒が出来上がったことを意味する大変おめでたい言葉でもあります。醪を搾る伝統的な道具は、船の平底に似ていることから槽(ふね)と呼ばれ、この工程の担当者を船頭と呼んでいました。
酒歳時記
日本酒の日
かつて10月1日は、実りの秋を祝い、米の刈り入れとともに酒造りを一斉に始める醸造元日でした。1965年(昭和40年)以前の醸造年度は、毎年10月1日から翌年9月30日と定めれていた歴史から、昭和53年に日本酒造中央会がこの日を「日本酒の日」と制定。「神無月」の語源は「醸成月(かもなしづき)」とする説もあり、新酒を醸す月から転じて神無月となったともいわれています。
11月・霜月
二十四節気/立冬・小雪
七十二候/楓蔦黄・山茶始開・地始凍・金盞香・虹蔵不見・朔風払葉
酒歳時記
醸造安全祈願祭
例年11月14日、奈良県桜井市にある日本最古の神社・大神(おおみわ)神社で執り行われる神事。酒造りの神・大物主神を称えて「うま酒みわの舞」が奉じられ、一年間の醸造安全が祈願されます。全国の蔵元から醸造関係者が参拝するなか、福光屋からは蔵元、杜氏らが参列。ご神体である三輪山の杉で作られる青々とした杉玉を御印として賜り、蔵に持ち帰って昨年の杉玉と掛け替えられます。
12月・師走
二十四節気/大雪・冬至
七十二候/橘始黄・閉塞成冬・熊蟄穴・鮭魚群・乃東生・麋角解
酒蔵行事
酒蔵の年迎え
毎年、年の瀬には蔵内行事として、醸造蔵・壽蔵の注連縄(しめなわ)の掛け替えや餅つきが行われます。神聖な酒蔵を悪疫や不浄から守る結界として注連縄は非常に大切にされ、つき立ての餅はその場で鏡餅に仕立てられ、蔵の各所に依り代として供えられます。かつては酒造り自体が神事であったことにも由来し、酒蔵行事は神道と深く関わっています。
1月・睦月
二十四節気/小寒・大寒
七十二候/雪下出麦・芹乃栄・水泉動・雉始鳴・欸冬華・水沢腹堅
酒蔵行事
寒造り
松の内が明けてから節分までの寒の頃、この時期の酒造りを寒造りといいます。寒の水で仕込み、低温下で醪(もろみ)をゆっくり醗酵させて有用な微生物の働きをじっくり丁寧に引き出すことで、質の高い酒に仕上げることができます。最高クラスの繊細な純米大吟醸もこの時期に造られます。
2月・如月
二十四節気/立春・雨水
七十二候/鶏始乳・東風解凍・黄鴬見睨・魚上氷・土脉潤起・霞始靆
季節商品
あらばしり
熟成した醪を酒袋に詰めて槽(ふね)の中にいくつも並べて積み重ね、自重にまかせて自然にほとばしる最初の酒を荒走り(新走り)といいます。搾りの過程は三段階にわかれ、最初の荒走り、次いで中心部分の中汲み、終盤の責めがあります。あらばしりは、酒にやや濁りがあり、ほのかに残る炭酸ガスとほどよい酸味が特長。搾りたて新酒ならではの鮮烈な味わいや香りが楽しめます。
3月・弥生
二十四節気/啓蟄・春分
七十二候/草木萌動・蟄虫啓戸・桃始笑・菜虫化蝶・雀始巣・櫻始開
酒蔵行事
初火入れ
通常、酒は蔵出しまでに2回の火入れを行います。1回目は搾った酒に含まれる酵素の働きを止めること、火落ち菌などの繁殖を抑えることを目的に貯蔵前に行う火入れ。2回目は蔵出しの直前、瓶詰めの前に行います。火入れ作業は、酒造りの期間中つねに行う作業ですが、寒の時期に仕込んだ酒が次々に仕上がる頃、急に外気温が上がって品質管理に一層の注意が必要な季節となり、火入れ作業が一段と忙しくなることを意図的にこう呼びます。
酒歳時記
桃の節句
3月3日の桃の節句には、室町時代から酒に桃の花を浮かべた桃花酒(とうかしゅ)を飲む風習がありました。桃は中国から伝わる不老長寿の仙木で、満開の時期と重なる上巳の節句には、邪気を祓い、成長と健康を願って桃の花が使われていました。江戸時代中期以降、白酒や甘酒を売り出す店が増え、節句の祝いにそれらを飲む習慣が庶民にも定着。雛祭りの膳に、にごり酒や甘酒を添える風習は現代にも受け継がれています。
4月・卯月
二十四節気/清明・穀雨
七十二候/雷乃発声・玄鳥至・鴻雁北・虹始見・葭始生・霜止出苗
酒蔵行事
甑倒し
甑(こしき)とは、酒米を蒸す際に用いる大型の蒸篭のことで、甑倒しとはこの蒸篭を横に倒して洗うこと。すなわち、その年最後の醪(もろみ)を仕込むための米を、蒸し終えたという意味です。当日は蔵内のお社にお神酒をささげ、蒸米作業の無事終了を祝う宴をもうけます。
5月・皐月
二十四節気/立夏・小満
七十二候/牡丹華・蛙始鳴・蚯蚓出・竹笋生・蚕起食桑・紅花栄
酒蔵行事
皆造
その酒造年度に仕込んだ醪(もろみ)をすべて搾り、酒造りを終えることを皆造(かいぞう)といいます。文字通り“皆造り終えた”という意味で、当日は杜氏と蔵人らが1年間の酒造りの無事を慰労する祝いの宴席が開かれます。
6月・水無月
二十四節気/芒種・夏至
七十二候/麦秋至・蟷螂生・腐草為螢・梅子黄・乃東枯・菖蒲華
酒蔵行事
初呑み切り
火入れ貯蔵した新酒の熟成具体を調べるために、貯蔵後初めてタンクの「呑み」(貯蔵タンク下部の酒を取り出すための部分)を開封し(切り)、酒の出来を官能評価すること。福光屋では毎年梅雨入りするころに、初呑み切りを行います。杜氏や蔵人にとっては、丹精込めて醸した酒たちが目指した味わいに成長しているかどうかを問う、緊張の行事であります。